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 カツ丼
 坂本屋(東京杉並)(2011/02/19)
 東京都 杉並区 西荻北 3−31−16
 TEL:03-3399-4207
 コメント:この一品を食べるとき、ふと「カツ丼と、それからビールを一本ください」というセリフを思い出してしまうのだが、「カツ丼」とはメタファーに富んだ命名だとつくづく思う。曰く「カツ」は勝負に「勝つ」、気合いを入れて「喝」、験を担ぐということになるのか。さて「カツ」の語源だが、もともとはフランス料理技法の'cutlet'である。「揚げ焼き」と訳されるが、パン粉をつけてやや深めのフライパンに油を張り浸しながら焼くという技法である。この'cutlet'が西洋料理として日本に紹介され、やがて揚げ焼きから天ぷらのように揚げる料理技法へ進化していく。とんかつの誕生である。カツ丼の発祥は諸説あるようだが、とんかつを玉子とじする料理技法は大正時代には確立していたようである。とんかつを玉子とじにして割り下をかけるわけであるから、とんかつ、とじ玉子、割り下それぞれの塩梅と全体のバランスが重要となる。どれか一つが主張しすぎては全体のバランスが崩れるし、揚げ物を丼にするわけだからちょっと油断するとくどさばかりが目立つことになる。今回の一品は、バランスが絶妙であり、技を感じた。まずとんかつだが、肉は薄めにしたものをたっぷりのパン粉でさくっと揚げる。肉の薄さに対して衣がやや厚いという印象だが、これが重要なのだろう。次に割り下、醤油をベースに砂糖で味を調えるのだが、主張しすぎないよう味は控えめになっている。この割り下を手鍋に張ってとんかつをなじませるのだが、ここに溶き玉子を落として玉子に火が通るまで加熱する。この段階が最も難しいのであろう。割り下にとんかつが浸された状態であるからほどなくして衣が汁びたしになる。だから時間との勝負であり玉子に素早く火を通さなければならない。火加減が問われるところである。調理光景を見ていたのだが、割り下を張った手鍋に素早くとんかつと溶き玉子を投じ、強火で一気に火を通していた。供された一品は、バランスが見事であった。さくっとした衣がほどよく割り下となじみ、玉子は火が通っているがところどころ半熟であり、とろっとした食感が衣と対照的で歯ごたえによいメリハリが生まれる。肉を薄めにしたのは重要な点であり、割り下が素早く肉にもなじむ他、厚めの衣とのバランスが考慮されている。もし肉が厚ければ、肉ばかり強調されてしまって全体の食感が重くなってします。飯は固めに炊きあげてあり、カツをしっかり受け止めながら割り下で汁びたしにならないようになっている。全くもって、見事な一品であった。